宝田伸昭展 ─ 画廊と一緒にできること  よいち

Posted on 8月 15, 2008

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宝田伸昭さんの初めての個展が開催される。
今回ここで、開催前に紹介したい理由は、「作品とは何か」「創るとは何か」「画廊は人に何ができるのか」について一つの例を提示したいからである。

宝田伸昭さんは、美術関係の学校を卒業した経歴はあるが、現在に至るまで日常の業務としては美術と関わりない会社員として忙しく働いている。
画廊「アートスペースある・る」は2002年に茨城県の県南、どんどん新興住宅地としてマンションが増えているあたりにオープンした。
市外ながら近隣に在住する宝田さんは、殆ど全ての展覧会に来場し、時には自分の作品を持参して画廊オーナーに批評を受け、またこつこつと描きためていった。その作品の独自性は自身も作家であるオーナーの目をひきつけ、作品を見せてもらうのを楽しみにするほどになった。
宝田さんは一方日々の勤労によってこつこつとお金も貯めた。

そうして、およそ6年が経過し、宝田さんが初めて個展を開く運びとなった。
つい最近この画廊に関わるようになった私にとってもこのことは大変喜ばしいことであった。
宝田さん自身はまだ「個展を開く」ということについて、喜びのほかに確実に慌ただしさと戸惑いを感じている。一方、画廊側は全力でバックアップしたい思いと溢れんばかりの喜びを感じている。とりわけ、オーナーの表情には我が子の晴れ舞台のように緊張と嬉しさで輝いている。

打ち合わせにあたり、不肖私も宝田さんの作品の資料を拝見した。
その画面から発する表現に衝撃を受けた。次に私の頭に浮かんだのは、長い専門教育を受けたり画家を名乗って画術を洗練させることにどういう意味や価値があるのだろうかというあらためての疑問だった。
彼の荒々しいタッチには、時として粗にして雑な部分がある。でも単なる「粗雑」ではない。あまりの息苦しさが胸を貫き、咆哮が聞こえ、目を背けたくなるような思いがそのまま筆を抑え、ついに投げ捨てている。
時として緻にして密な部分がある。しかし単なる「緻密」ではない。何度でも立ち戻る譲れないこだわりや執念、そういう自分への諦念や哀愁がやるせないほど浮かび上がってくるまで筆を止めない呼吸をしない、そういう空気が伝わってくる。

画面内の均衡をそつなくおさめることだけに力を注いで6年間過ごして来たら、あるいは一度でもそのことにかかりきりになったなら、きっとこのような作品にはならなかっただろう。
これほど声の聞こえる絵にはならなかっただろう。

宝田さんの直筆の文章を読ませてもらった。
ジャンルで言えば散文詩なのだろう。しかし「詩」というほど人の耳や目に対してお行儀良くしようとしていない。
日々の繰り返しの中で言葉をつむぐ上で思考し、考える上で言葉を重ね、重ねた上にさらに自分の視線を載せて、さらに思考する。渾身の思いで作った言葉のミルフィーユのようであると思った。

文章の量が多いので分類・取捨選択して本人に目を通してもらって、ネットに掲載してみた。しかしあらためて自宅のパソコンで自分の文章を読んだ宝田さんから慌てた声で電話がかかってきた。
激しいショックを受けた、という。
ミルフィーユの断面はあまりにも生々しかった。それを展覧会より先に公開するのも、茫漠たるネットに曝すのも、おそろしかったのだ。
先にそれらの文章をまとまってご覧いただいたお客様には申し訳ないが一旦削除させていただいた。今はあくまで展覧会の入り口として、ミルフィーユに喩えるなら試食のひとくちのみ掲載している。

繰り返して言う。
「宝田伸昭展」は宝田伸昭という人間の内面が、人生の一断面が、本人の視点で深くざっくり遠慮会釈なく展示される空間になる。
けして洗練されたものとは違う、だが確実に強い個性に圧倒される空間になるだろう。
文章も一冊にまとめて会場に置き、作品の後で手にとっていただく形をとる。その中にもまた世界が深まっていることにお気づきいただけるだろう。

さて、
悪く言えば画廊慣れしていらっしゃる、号何十万という作品を見慣れた常連のお客様がどのように思われるか。
初めて画廊に足を運び、あらためて宝田伸昭という人を目の当たりにした知人友人がどう反応されるか。
「美術」という言葉は「美」の「術」だと思っているそのスジの方々の心に何が残って下さるだろうか。
そして何より、この影響が宝田さん自身にどう還ってゆくか。個展をやって良かった、絵を続けて良かった。いいことも悪いことも含めてそう思っていってくれたらと思うが、…

本当に、これからである。もうすぐである。
興味のある方には是非、観にいらしていただきたい。
美術とはなんぞや、と思う方、あるいはごく普通の会社員として毎日仕事に追われている方にも、ご覧いただきたいと思う。

9/1(月)〜9/7(日) 11:00〜18:00(最終日17:00)
アートスペースある・る

Filed Under 展覧会

★著者: よいち
★自己紹介:元ギャラリー運営スタッフです。
★記事データ:掲載日 2008/8/15 at 16:51:06
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