【左のポケット】その37「ベニス幻想、2」 長島義明
Posted on 2月 18, 2008
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翌日約束の場所に行くと一艘の黄色いゴンドラが待つていて狭い運河をぬけ、サンミケーレ島に向かった。ゴンドラを漕ぐ男は無口で一言も話さない。サンミケーレ島は墓場の島だが古い大きい家が一軒だけ建っている、何に使う家なのか、人の気配がしない。中に入ると大広間にはシャンデリアが明るく輝き大勢の人がいて楽団も入り、踊っている。そこに居る全ての人が仮面を冠り着飾っているが、なんだか変だ。話し声がいっさい聞こえない。ワインがあり、料理もいっぱいあるのだが、だれも手をつけようとしない。昨日誘ってくれた仮面の男を探したが全員が仮面を冠っているので探し様が無い、あきらめて一人でワインを飲み、料理をつまみ楽団がかなでる音楽を聴きながらダンスを見ていた。やけに年寄りが多いのに気ずいた、若者や子供もいるが9割がた老人だ。仮面を冠っていてもなんとなくわかる。楽団は一曲終わるとすぐ次ぎの曲を始める、ダンスはそれに合わせて踊り、休憩しようともしない。もう何時間踊っているのだろう。僕は話し相手もなくワインを飲み料理を食べ続けていたが退屈になって来た、それに空気が息苦しい。重い扉を開け外に出ると冷たい風が気持ちいい。
日は斜めになり帰ろうと船着き場にいったがゴンドラはいなかった。しかたなく墓場を散歩していたが、日が落ち薄暗くなり落ち着かない、こんなところで一夜を過ごすのは嫌だなと思って空をみると、星が現れ、それが近づいてきた。いや、星ではなく飛行機、ヘリコプター。うそだろー、それはとんでもない物だった—–。UFO
飛行物体が死者の島、サンミケーレ島の上空にきて停止すると島全体の墓がなんだかざわざわしだした。目に見えないなにかがうごめいている。さきほど仮面をつけた大勢の人が踊っていた建物の扉が開き、ぞろぞろ仮面の男女が出て来た。
僕は木陰に身を隠し飛行物体を見つめた。墓場の上まで飛行物体は来ると、突然,底部の一部が開き強い光が墓場を照らした。僕は急いでバックからカメラを出しシャッターを切った。墓場の端に在る広場が白く輝き、光の帯が飛行物体と繋がっている、仮面を付けた男女がその光の輪の中に入って行くと彼らの体は宙に浮き、スゥーと飛行物体に吸い込まれて行く、列に並んだ仮面の男女は次から次とそうして飛行物体の中に入っていった。僕は彼らに見つけられない様に気をつけてその光景を注視していた。長い時間をかけ、飛行物体に入っていった仮面の男女は1000人以上になるだろう。もうすぐ夜が開ける、僕の体が震えていたのは寒さのせいばかりではない。仮面の男女がすべて乗り終わると底部の扉が閉まり音もなくものすごいスピードで上昇し、西の空に飛び、やがて見えなくなった。空が明るくなり周りを見回してもなにもない、墓場は静かに以前のままで、舞踏会が行われていた建物も墓場も人の気配がない、ただひとつ仮面が墓の前に放置されていた。あの飛行物体はなんだったのか、死者をはこぶUFO———–。
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