北斎には敵わない 村松恒平

Posted on 1月 9, 2008

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北斎の展覧会に行くと毎回無条件全面降伏となる。
「絵がうまい」という素朴な言い方にややこしい理屈がいらない人。
だから展覧会はいつも普通っぽい人々で混んでいる。

最近は技術にマインドが伴わないという不思議なことが起きるので、僕はうまいという言葉は素直に使えない。
しかし北斎は格別。うますぎる。
そういう、うまい! 天才! な人が「画狂人」と自ら名乗るほど、生涯をかけて描くことに打ち込んだのだから、たまらない。
全然凡人は届かない。

これに現代で部分的に届くのは、山口晃氏くらいではないだろうか。

うまい、速い、量産する。しかも版画でどんどん刷る。
一生にどれだけの枚数を作ったのか。
全然絵がうまくない自分としては、せめて日常的にクロッキーなどをするぞ、と決意する。
速く正確に対象をとらえる、絵を描くいちばんシンプルな目標と楽しみそこにあるだろう。
しかし、北斎の時代、筆の時代は、デッサンはなかった。
では、絵の訓練はどのようにしたのかな、ということに興味がある。
日本的な方法や発想があったと思うのである。
それが知りたい。

今回の展示は外国人向けに制作した版画が中心で、最初のほうは、微妙に陰影がついて立体感があるものが多い。
それが最初かなり違和感があるけれども、すぐに慣れてより立体的な北斎像が生まれる。
もう一つこの展覧会では、北斎の工房というものがクローズアップされている。いわば北斎ブランドで弟子たちが北斎的な作品を制作していたのだ。そういうことは昨年の展覧会では前面に出てこなかった。

常設の中にある『北斎漫画』展では、使い過ぎて擦り切れた版木が展示されていた。何千、何万と刷らなければあそこまですり減るものではないだろう(ちなみにこの『北斎漫画』の展示はガラス越しに作品が遠く、たいへん見にくい。最初にすべき配慮がなされていない。こういう無神経な展示は初めてだ)。

北斎は生涯大流行作家であり、ベストセラー作家であり、なおかつ、工房を持って量産に励んでいたということらしい。その全貌にはたいへん興味がある。
何か当時を彷彿とさせる書物があったら読んでみたいと思った。

江戸東京博物館が、初めてか久しぶりなら、常設と両方見れば、半日以上をつぶせるであろう。
そして、両国のちゃんこ鍋でいっぱいやって帰れば、リーズナブルで大満足のデートコースとなるだろう。

江戸東京博物館●北斎 ヨーロッパを魅了した江戸の絵師 1月27日まで
http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/kikaku/page/2007/1204/200712.html

Filed Under 展覧会

★著者: 村松 恒平
★自己紹介:村松恒平 1954年東京生まれ。【DRAGON ART CREATOR'S REVIEW】編集人。編集者、ライター、芸術家。著書に『プロ編集者による 文章上達スクール』シリーズ(メタブレーン)など。面白いプロジェクトや、お仕事募集中!
★記事データ:掲載日 2008/1/9 at 10:50:02
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