【悪魔の使いに誘われて】(その3) 長島義明

Posted on 11月 13, 2007

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「いけにえ?」
「そうです。生け贄に選ばれた人です」
「この村ではなにか重大な事がある時は生け贄を神、仏に捧げます」
「まさか、その生け贄になった人を殺すのじゃないだろうね」
「殺しはしませんが、生け贄になる人の儀式の手助けはします」
「儀式は朝に訪れた裏山の丘、ヒマラヤの山々が見える所で今日の夕方行われます。それまで時間があります、お寺に行ってみませんか」
僕は生け贄の事が気になったが、少年に促されお寺にむかった。
寺は村の外れにひときわ大きく建っていた。ずいぶん古い建物だ。
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寺の正面入り口の前で一人の女性が正装して、地面にひれ伏し、祈っていた。
女性が祈る言葉はお経のような、呪文のような、低く、それで力強い、地の底から聞こえて来るような声だった。女性の声と云うより、動物の声に近い。時々体を起こし、またひれ伏し、休む事無く呪文をとなえ続けている。それは生け贄の儀式が行われる夕方まで続くと云う。
寺の中は薄暗く、油を燃やした灯明がひとつジリジリと音をたてていて、人の気配はない。正面の奥にいつの時代に作られたものか、古い千手観音の像が安置されている。3Mほどもある立派なものだ。こんな山奥にあるのが信じられない。普段は白い布で覆われているがその日は特別な日なので布が外されていたのです。石作りの寺の天井には太い木の梁が何本も黒光りに光っている。この寺がいかに重要なものか、それを見ただけでもわかる。
それにしてもこの寺のことはどの案内書にも、どの文献にも紹介されていない。どうしてだろう。いや、この村のことさえ紹介されていない。地図に名前さえ乗っていないのです。
千手観音をみて、寺の外に出ようと振り向いた時、右側の壁に曼陀羅の絵が描かれているのに気随いた。
その曼陀羅は変わっていて、普通真ん中に居るはずの大日如来がない、変わりに宇宙の真理を解いた絵が描かれていた。
その図の円の一番外側に炎が描かれている。「火」
拝火教、別名、ゾロアスタ教。古代ペルシャで起こった「火」の信仰宗教。
ペルシャからインド、アフガニスタン、トルキスタン、中国西域地方に広まり、中央アジアを席巻した宗教。当時、ペストやコレラなど伝染病が流行するとなす術がなかった。村全員の人が伝染病にかかり生き絶える。大きい都でもそうだ。それを食い止めるには「火」の力を借りるしかなかったのです。拝火教はそんな地方に広がって行った。仏教が起こり拝火教が衰退して行く過程で、拝火教の儀式が仏教に取り入れられた。今でも日本の密教で行われている護摩を焚く儀式はそのなごりだ。と僕は思います。
全て、「火」の力で消滅してしまう。奈良、平安時代に度々遷都が行われた
理由のひとつにそんなこともあったのではとーーーーー。
話がそれてしまいました。
この寺はそんな拝火教が色濃く残る仏教寺ではないのか。そんなおもいを抱きました。
少年はずーと携えていた細長い包みの紐をほどき、それを仏前に供えた。
中から出て来たのは先が二股になった剣です。ラダックで会った貴人の女性から託された物だ。刃は鋭く光り、その形はおどろおどろして初めてみる。儀式用の剣だ。
どうしても10才か12才程にしか見えない少年に、僕は疑問を感じ、その時年齢をたずねた。
「本当のところ君の年齢はいくつなんだい」
悪魔の使いだ、と名乗る少年はこたえる。
「21才」
うそだろう、そんなはずはない、どう見ても12才より上には見えない。
「あなたが信じようと信じまいと自由です。でも僕は21才なのです。
母はこの村の出身でヒンズー教徒のインド人の男に犯されました。そして僕が生まれ、母は亡くなりました。それ以来、僕は悪魔の使いとしてこの村で育てられたのです」
少年の話し振りは12才の言葉ではなかった。
この村では30才になると、男は誰でも生け贄になる権利を持つと云う。
それは名誉であり、恐ろしい事ではない。らしい。
夕方の儀式は何年も前から続いている儀式で、そこで空を飛ぶ人を見る事が出来る。ただし、絶対に写真を撮らない事。それだけは守らないといけない。カメラも僕にあずける事。それが約束だった。
信仰にはさまざまな秘密がある。僕は約束は守ると告げ、夕方の儀式を待った。          ーーーーー続く。
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★著者: 長島義明
★自己紹介:日本及び世界の人々、風景を40年以上撮り続けるフリーの写真家。著書にアメリカで出版された「One World One People」 「One World One Child」、「阪神大震災」、がある。 写真展「平和だった頃のアフガニスタン」は日本各地で30回以上開催。アメリカ美術雑誌協会最優秀賞受賞
★記事データ:掲載日 2007/11/13 at 14:24:42
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