[とに〜の美術館に行こう1] DRAGONの美術館  とに〜

Posted on 4月 8, 2007

龍子旧宅 龍子記念館外観 龍子記念館マップ・アクセス
さぁ、というわけでいきなり始まりました”とに〜の美術館へ行こう!”。いったいどんな企画かと言えば、何ら奇をてらっていないタイトルそのまま、読んで字の如し。

毎回、『美術は、エンターテイメントだ!』というコンセプトのもと、一つの美術館をナビゲート。最終的には、皆さんに「その美術館に行ってみようかな」と思わせるところまでナビゲートしようというもの。単純明快な企画ですね。

しかし、取り上げる美術館はどこでもいいと言うわけではありません。

僕がナビをするまでもなく、国立新美術館や国立西洋美術館などの大きな美術館には、皆さんそのうち行く機会があるでしょう。そこで、あえてこの企画では、なかなか普通の人が行かないであろう、知る人ぞ知る美術館にスポットを当てていこうと思います。
意外な場所で出会える、意外な名品の数々。そのような美術館ならではの面白さ。そこには、きっとオンリーワンな感動があるはず。

さて、その記念すべき1回目にご紹介する美術館は、”大田区立 龍子記念館”。

ここは、日本画壇の巨匠・川端龍子(1885〜1966)が、自分の代表作品を展示するために自ら作った日本初の個人美術館。しかも、その設計も細部にわたって、龍子自らの手で行っているのだとか。

まず、この龍子記念館に訪れた人間は、その建物の形状に、少し違和感を覚えるに違いありません。どことなくクネクネ、カクカクとしているのです。他の美術館と比べても、かなり異色な形状。

“龍子の設計ミス??”

そう思い、意を決して、その疑念を職員の方に伺ってみたところ、一枚の写真を見せていただきました。それは、この美術館上空からの航空写真。実は、この龍子記念館。上から見ると、タツノオトシゴのような形をしているのです。あ、それでカクカク、クネクネ!龍子が、自分の名にちなんで、そう設計したとのこと。設計ミスだなどとは、全くもってとんでもない。

また、龍子記念館の屋根には、龍舌蘭のモチーフが聳え立っています。そう、まさに、ここは”龍”尽くしの美術館。「”DRAGON” ART CREATOR’S REVIEW」創刊のこの一回目を飾るに、何とも相応しいではないですか!

この美術館を、自宅から一番近かったという理由だけで、選んだにしては、何たる都合のよい展開。

そして、この都合のよい展開は、まだ続きます。

それは、川端龍子の芸術家としての理念・主義が、何を隠そう”美術館へ行こう!”だったのです。

川端龍子は、日本で初めて「会場芸術」という考えを唱えた画家として知られています。「会場芸術」とは、絵は展覧会の会場で楽しまれるべきだという考え方。これは、現代の僕たちにとっては、すっかり当たり前の考え方です。が、龍子が「会場芸術」を唱え始めた昭和1ケタの時代、絵は家の床の間に飾って楽しまれるものという考え方が普通でした。そんな時代の中で、龍子は「会場芸術」という考え方を実践していったのです。

映画で例えるならば、映画館で観るための映画を目指したのです。”家の中で、ネットでダウンロードした映像やDVDで映画を楽しむのじゃなくて、映画館に行って、そこで映画を楽しむべきだ!”と、龍子は言ったのです。

映画館で映画を観ると、やはり迫力が全然違います。その最大の理由は、画面の大きさ。実は、龍子の言う「会場芸術」の作品の最大の特徴は、これと同じことが言えます。それまでの当時の日本画に比べて、1枚1枚の絵が大きいのです。どの絵も、少なくとも、畳一枚分はあるだろうかという大きさ。龍子の”家には飾らせないぞ!”という思い(嫌がらせ?)が伝わってくるかのようです。

龍子は、壮大なテーマの絵はもちろんのこと、何気ない画題(野菜、蛙、池の鯉など)の絵でも、例外なく、かなりの大きさで描かれています。これに比べたら、それまでの日本画は14インチの画面。大画面で描かれた龍子の「会場芸術」作品は、圧倒的に迫力が違います。

これだけ大きな絵ですから、残念ながら、本やネットの画像では、その良さは1割程度しか伝わりません。美術館に、実際に足を運んで、絵を楽しむべし。龍子の理想とする「会場芸術」は、まさに”美術館へ行こう!”の趣旨そのもの。

この龍子記念館には、そんな龍子の”美術館へ行こう!”という想いがたくさん詰まっています。

例えば、絵はガラスのケースで覆われていません。作品と直に対面することが出来るように、配慮されています。このことによって、龍子の「会場芸術」作品の迫力が、ダイレクトに伝わってきます。

それから、展示室に入ったら、すぐ左に注目してみてください。龍子自らが書いた順路案内の表示があります。会館当初は、自らの筆で書いた作品紹介もあったそうです。この美術館に訪れた人への、龍子の気配りが感じられます。

と、ここで、この美術館に行ったら、是非観ておきたい3つのチェックポイントをお教えいたしましょう。

まず1つめは『震災緑青小3番・震災緑青5番4号』

これだけ言われても、何のことだかわからないでしょう。美術館内には、龍子自身が使っていた岩絵の具がたくさん展示されているのですが、これはその中の2色についている名前。

この2つの岩絵の具に関しては、世界中どこを探しても、この龍子記念館でしか見ることのできない大変貴重な色なのです。この岩絵の具の名前に、何やら”震災”という物騒な名前がついていることには、皆さまもうお気づきのことでしょう。実は、この岩絵の具。あの関東大震災のときの火災によって、画材屋の倉庫の中にあった岩絵の具が、蒸され続けたために偶然出来たものなのだとか。それを気に入った龍子が、すべて買い取ったのだそうです。

その後、これと同じ色を作るために、何度か再現が試みられたそうですが、もう二度と同じ色が出来ることがなかったという幻の色。

是非、その目で見て、その微妙な風合いを堪能していただきたいものです。

2つめは『龍子公園』

龍子記念館と道路を挟んだところにある公園です。と、公園と言っても、遊具があったり、だだっ広い原っぱがあるわけではありません。

龍子の住んでいた自宅や、アトリエ、龍子が愛した自然溢れる庭園が、そのまま保存されている場所なのです。単なる自宅を見て、何が面白いのかと思われる方もいるでしょう(←実際、僕もそう思っていました…)。が、この公園自身が、龍子のどの作品にも負けるとも劣らない「会場美術」作品なのです。龍子記念館同様、自宅・アトリエ・庭園のすべてが龍子の設計によるもの。龍子の建築家としての非凡な才能が、随所に見られます。人の家を見て、こんなにも感動したのは、初めての体験でした。

何より驚くのは、一見、普通の日本風家屋に見える家の随所に、斬新なデザインが施されていること。戦後すぐに建てられたとは全く思えない、現代でも通用するセンスの建築です。リフォームをテーマにしたTV番組「劇的!ビフォーアフター」の、『アフター』として紹介されるような建築だと思っていただけるとわかりやすいような、そうでもないような…。

ちなみに、ここは、無料で公開されているのですが、どの時間も空いているわけではないので、要注意。1日に3回(11時、13時、15時)のみ、龍子記念館の職員さんに案内していただいて入ることができます。その際に、たくさんあるこの公園の見どころは、職員さんが案内してくれるハズです。なので、僕のガイドはこの辺にしておきましょう。

そして、最後の3つめは、『《爆弾散華》」

これは、今回の一番のハイライト。僕が龍子記念館で出会った名品です。僕が龍子記念館を訪れたとき、「龍子を取り巻く豊かな自然」というテーマで、作品が常設展示されていました(詳しくは以下のURLにて↓)。

http://www.ota-bunka.or.jp/4ryushi/ryu_top.html

その展示の目玉となっているのが、パンフレットにも記載されているこの《爆弾散華》 という作品。この絵も、他の龍子作品と同様、実際に見ると大きな作品。

何も先入観を持たずに見ると、ただ単に野菜が描かれているだけの絵のようにしか見えません。

が、この絵が描かれた昭和20年という年、それに加えて、題にも注目してみると、ある一つの事実が見えてきます。実は、この絵は”戦争画”なのです。

終戦の3日前、この龍子記念館の辺りで空襲がありました。龍子は、間一髪でその難を逃れ、爆弾が落ちるのを目の当たりにしたそうです。その時に脳裏に焼きついた畑の野菜が飛び散ったさまを描いた作品が、この《爆弾散華》なのだとか。そう言われて、この絵を観てみると、なんとも感慨深い。爆弾が野菜を吹き飛ばす瞬間を、スロー再生で見たような感じに見えます。

“戦争画”というと、どこか悲惨さが前面に来る作品が多くて、どうしても僕なんかは目を背けてしまいがちです。しかし、そういう”戦争画”とは違い、この《爆弾散華》には、不思議と惹きつけられてしまいました。戦争を肯定するのでも、否定するのでもなく、野菜が爆弾で飛び散ったという理不尽な事実だけが、この絵にはあります。だからこそ、かえって戦争というものについて考えさせられます。《爆弾散華》 は、そんな世界でも類を見ない独特な”戦争画”です。去年、”硫黄島からの手紙”を観た方も見逃した方も必見の一枚です。

「会場芸術」に生涯を捧げた川端龍子が、その集大成として完成させた究極の「会場芸術」作品とも言える龍子記念館。

さぁ、美術界の【DRAGON】に出会うため、美術館へ行こう!

大田区立 龍子記念館

住所:東京都大田区中央4−2−1 電話:03(3772)0680

開館時間:午前9時〜午後4時30分(入館は4時まで) 休館日:毎週月曜日(祝日のときは翌日)年末年始 展示替え準備のための臨時休館

入館料:大人・・・200円/小学生、中学生・・・100円 (団体20名以上:大人160円/ 小・中学生80円) 65歳以上、6歳未満は無料

http://www.ota-bunka.or.jp/4ryushi/ryu_top.html

Filed Under 【とに〜の美術館へ行こう!】

★著者: 大山 敦士
★自己紹介:アートテラー。 美術の「エンターテイメント」化を目指して、blog・mixiを中心に啓蒙活動中。 現在は横浜美術館と提携し、独自のガイドイベント等の活動にも積極的に取り組んでいる。 "難解”“堅苦しい”と思われがちな美術を、独自の視点・語り口で、よりわかりやすく、より親しみやすく、そして何よりも、より面白いものにと変えていく。 "とに〜の美術展へ行こう!blog”のURLはこちら↓ http://ameblo.jp/artony/ メッセージは、こちらまで↓ tonybijyu83@yahoo.co.jp
★記事データ:掲載日 2007/4/8 at 0:02:34
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